history of cuff links
■ カフリンクスの歴史
“CUFF LINKS”( Susan Jonas and Marilyn Nissenson)によると,カフリンクスが現在われわれの知っている形になったのは18世紀末とのことである.その前身は16世紀初頭のシャツの袖口(カフ)を閉めるひだ飾りで,袖口の穴に細いリボンや紐を通して袖口を閉めていた.同様のリボンや紐はシャツの襟を閉じるために使われ,これがネクタイの前身となった.
袖口のリボンや紐は19世紀初めまで使われたが,おしゃれな紳士は個人が特定されるようなデザインのボタンを短い鎖で結合して袖口を留め,これがカフリンクスの起源と考えられる.20世紀初めまでは sleeve button または cuff button といった呼称も使われていたようである.シャツにフォーマルな感じを出すために糊が使用されるようになり,硬くなった袖口を通すため種々の工夫がなされた.2つのパーツを結合させるものやレバーや受け軸で結合するもの,ダンベル・デザインなどが登場した.(1)
もう一冊 “CUFF LINKS”という本,著者はカフリンクスの有名なコレクター,Bertrand Pizinである.カフリンクスは17世紀初めにヨーロッパに登場したが,当時のダンディーな男はレースやリボンで袖口を留めており,カフリンクスはめったに使用されなかったと記載されている.袖口をリボンで留めた17世紀の肖像画と,カフリンクスを着けている様な18世紀の絵画の一部分が掲載されているが,17世紀のカフリンクスの形を具体的に知ることはできない. 1892年のThe Catalog of the New England Jewelry から引用されている16組のカフリンクスのうち6組は表と裏のデザインが同じで,他のものでは裏に異なったデザインがほどこされており興味深い.(2)
JonasとNissensonが記載しているようにカフリンクスの歴史を知るためにはシャツの歴史を知ることが必要である.種々の下着の歴史を記載した “The history of underclothes” には 1690年に描かれたシャツを着た男性のポートレイトが掲載されている.袖口はやや楕円形のボタン状のもので留められているが,これがボタンなのかいわゆるカフリンクスなのかは不明である.(3)
カフリンクスに関する文献は少なく,カフリンクスの起源について詳しく知ることはできないようである.良い文献等ご存知でしたらメール等でお教えいただければ幸いです.
1960年代にカフリンクスの使用が減少し,多数の美しいアンチークのカフリンクスはイアリングに造りなおされてしまったのは残念だ.総じてカフリンクスはジュエリーとしてはあまり大切にされてこなかったようである.古典的なジュエリーの教科書“Understanding Jewellery”は495ページから成り919のジュエリーの写真が掲載されている.しかしカフリンクスの写真は3枚のみで,説明文も無い.(4)ジョージ・ジェンセンの作品のコレクター本にもカフリンクスは少数しか掲載されていない.(5) 1990年ころから再びカフリンクスが戻ってきているとの観測は喜ばしい.もう少し男の袖口を大切にしたいものである.
【文献】
1.CUFF LINKS: Susan Jonas and Marilyn Nissenson, Harry N. Abrams, inc., New York, 1991
2.CUFF LINKS: Bertrand Pizzin and Jean-Noël Liaut, Assouline Publishing, 2002, first published by Edition Assauline, Paris, France
3.The history of underclothes: C.Willet and Phillis Cunnington, Dover publications inc, USA, 1992, first published by Michael Joseph ltd, London, 1951
4.Understanding Jewellery: David Bennett and Daniela Mascetti, Antique Collector’s Club Ltd. Woodbridge, Suffolk,England, 2003
5.Georg Jensen, A tradition of splendid silver: Janet Drucker, A Schiffer publishing Ltd., USA, 2nd edition, 2001
【参照】
morraは19世紀後期にイギリスで造られた銀製のカフリンクスを所蔵している
(ミアルカで購入).両面とも同じデザインとサイズで,繊細な彫金がなされている.大きさは18.6 mm×13.5 mmで8の字の金具でつながれてている.通常のシャツの袖のボタン孔を通すのには大きすぎるため8の字金具を外して自作の裏面を付けて使用.もちろん片方はオリジナルのまま保存している.
■ HOLD TIGHT
イギリス国王エドワード八世が,王位を捨て二度の離婚歴のあるアメリカ女性ウォリス・シンプソンと1937年に結婚した.ウォリスはエドワードのためにロンドンのカルティエに注文して
ダイヤのカフリンクスと シャツ上部の飾りボタン
(stud)のセット(suite)をプレゼントした.それらにはウォリスとデイビッドの名前,年月日とともにHOLD TIGHTと刻印してある.袖口をきちんと留めてという意味と,私を抱きしめてというふたつの意味が込められている.このドレス・スイートの写真ははS.Joans
の“CUFF LINKS”で見ることができる.
Copyright (C) 2010 morra all right reserved